2017年5月7日日曜日

たほいやのおもひで

今年になって、急に「たほいや」に触れる機会が増えました。
まずは1月15日に渋谷のカルチャーカルチャーで行われた「国語辞典ナイト3」。イベント後半で、国語辞書マニアの方々による「たほいや」模範演技が行われ、多いに盛り上がりましたし、我々一般参加者にも「りそつ」「ほくぼ」の2題が出題されました(※1)。
その勢いを借りて、デイリーポータルZでは、2週に渡っての「たほいや」企画が行われました。

その後、2ヵ月連続で「たほいや甲子゛園」が開催されました(会場は同じく渋谷カルチャーカルチャー)。第1回は松尾貴史さん、大高洋夫さんというレジェンドお二人が、第2回にはさらに森雪之丞さんまで参加され、「たほいや」リアルタイム世代としては感涙モノのイベントでした(※2)。

この「たほいや」は、「珍しい言葉を広辞苑の中から選び出し、その意味を考え、数ある解答らしきものの中からその言葉本来の意味を探し当てる」(※3)というゲームです。
「国語辞書から珍しい言葉を選び、皆で嘘語釈を考える」という形式のゲームは、イギリスではDictionaryまたはFictionaryと呼ばれているそうですが、このゲームが日本で「たほいや」として知られるようになったのは、フジテレビで「たほいや」という番組が放送されたのがきっかけといって間違いないでしょう。

「たほいや」が放送されたのは1993年。放送自体は半年で終了しましたが(※4)、「広辞苑を使った知的ゲーム」というパッケージングと、松尾貴史、森雪乃丞、三谷幸喜、山田五郎といったサブカル界の(当時は)若きスターたちのやり取りが面白く、楽しみに見ていました。
ビデオ録画せずリアルタイムの放送で見ただけなので、具体的な中身(どんな単語が面白かったか)はほとんど覚えていなません。ただ、森雪乃丞が意外とフランクでお喋りだったのと(第2回たほいや甲子゛園でもやっぱり面白かった)、周富徳がほぼ毎回質草を入れていたこと、そしてとにかく大高さんが強かったのだけは覚えています(第三舞台出身の俳優というのは随分後になって知りました)。

テレビ放送時の私は、ちょうど頭でっかちの大学生だったので、夏休みやGWといった長期休みのときに、友人たちと泊まりがけで「たほいや」をプレイしていました。広辞苑を持参することもありましたが、自宅で公文式の教室を開いていた友人がおり、そこにあった国語辞書(広辞苑以外の中型辞典)を使ったこともありました。「たほいや」という単語が載っている中型辞典は広辞苑だけですが(※5)、「たほいや」というゲームを行うにあたっては特段の問題はありませんでした。最初のうちは勝ち負けを意識して割と真剣にプレイしているのですが、夜中に、しかも酒を飲みながらなもので、段々と勝ち負けを度外視して、受け狙いに走る傾向にありました。

しかし、「受け狙い」といってもそこは「たほいや」。まがりなりにも国語辞書の語釈とは思えない文章を書いてしまっては興ざめも良いところ。皆で合宿たほいやをしていた20数年前、あまり「たほいや」心のなかった女の子が、「わんず」というお題で、「ビーイング系の歌手。」(※6)と書いてしまい、皆で「ワンズが広辞苑に載っているはずがないだろう」「何考えてるんだ」「ふざけるな」とボロカスに言ってしまい、すっかり雰囲気が悪くなってしまったこともありました。真面目に考えるからこそ面白い。「とんでもない内容ではあるけれど、ひょっとすると広辞苑に載っているかも知れない」という微妙な線を攻めるのは忘れてはいけないのです。

そんな訳で、「たほいや甲子゛園」の参加者の回答が紹介される際、明らかに受け狙いの回答(そんなの広辞苑に載ってる訳ないじゃんという回答)が選ばれるのは何とも釈然としません。

「たほいや」は大喜利ではない

ということは強く主張しておきたいと思います。

「たほいや甲子゛園」の度に、また友人達と「たほいや」をやりたいなあという気持ちは強くなるのですが、なかなか時間が取れません(そもそもいい歳して「たほいや」の相手をしてくれる友人もいないし……)。しかし、その代わりという訳ではないですが、「紙上たほいや」の機会をいただくことができました。

5月20日(土)、21日(日)の2日間、東久留米市立中央図書館の「図書館フェス2017」というイベント(※7)の「ひとハコ図書館」に「辞書を読む図書館」を出展させていただくことになりました。辞書で図書館を作るのであれば、同じ言葉を色んな辞書で引いてみて、意味の違いを調べるのが面白いのでしょうが、私はそんなに辞書に詳しくないですし、他に詳しい方がいっぱいいらっしゃるので、今回は広辞苑に絞って展示することにしました。
当日は広辞苑だけでなく、広辞苑の元になった辞書である『辞苑』や、広辞苑の成り立ちを描いた本なども用意しています。書籍だけでなく、配付資料も用意するつもりです。その1つが「紙上たほいや」です。広辞苑から5つの言葉を選んで、嘘の語釈を用意しました。当日会場で配布していただくことにしています。お近くの方は東久留米市中央図書館に足をお運びいただけると嬉しいです。

(※1) 参加者のツイートまとめはこちら
(※2) 第1回の模様はこちら
(※3) 『《たほいや》』フジテレビ《たほいや》編(扶桑社) 1ページから引用
(※4) Wikipedia 「たほいや」参照(https://ja.wikipedia.org/wiki/たほいや
(※5) 「たほいや」の本来の意味は、「(静岡県で)遣来小屋(やらいごや)に同じ。」(広辞苑第6版)。要するに、イノシシを追い払うための小屋ということらしい。この「たほいや」という単語、広辞苑と同じ中型辞典である大辞林、大辞泉には載っていないが、もちろん『日本国語大辞典』には載っている。
(※6) 25年以上前、WANZ(ワンズ)という歌手がいたのです(こちらを参照のこと)。
(※7) https://www.lib.city.higashikurume.lg.jp/clib/libfes/2017/libfes2017.html